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  • 山崎友記子

「当事者目線」を報道に生かす<下>

大窪奈緒子さん、岡田真理紗さん(NHK)


 子育て中のママ・パパの孤独や悩みに寄り添うニュースサイトを立ち上げ、自らも仕事と育児に奮闘中のNHK報道局ネットワーク報道部の大窪奈緒子記者と、元同部記者でNHK放送文化研究所の岡田真理紗研究員に体験談などを語っていただいた後編では、今後のキャリアプランや、あとに続く後輩たちへの思いに話がおよびました。(聞き手・山崎友記子=元毎日新聞記者)


 ――ニュースサイト「孤育て ひとりで悩まないで」をはじめ、ウエブにコンテンツを出すようになって「子育て記者」への評価や働き方にも変化があったそうですね。  岡田真理紗さん テレビで放送するコンテンツを作るのにはすごく手間と時間がかかる。ロケにいって、字を起こし、編集して……。朝早い番組だと、前日は徹夜で編集することも以前はありました。これがネットだと、話を聞いたらすぐに、コンパクトに出せます。柔軟な対応ができることもあって、時間に制約のある人でも働きやすくなったのかな、と思います。  また、ネットワーク報道部は子育て中の記者が多いというのもありますが、デスクが、世の中に発信するコンテンツには子育て中の人の視点も必要ということを認識してくれています。だから頼ってくれる。ちゃんと記者として扱われている気がするんですよね。子育て中でハンデのある記者が一人前としてみてもらえるかどうかは、記者としてのモチベーションにかかわってくると思います。


「戦力」として捉えてくれる

 大窪奈緒子さん 新型コロナウイルスの感染拡大防止で安倍晋三首相が「一斉休校」を要請した時、ネットワーク報道部では、翌朝には出勤時間帯に上司から電話がきて「学校はどうした? 在宅勤務にしようか? 手当できない日はどうしようか」と具体的な相談が入る。すごく心強い。一緒に悩んでくれる上司がいること、戦力として捉えてくれているのがありがたいです。  ――出産後も仕事を継続するのが当たり前になってきているとはいえ、結婚・出産などの女性のライフサイクルとキャリア形成にどう折り合いをつけるのか難しいですね。  大窪さん 入局後、22~30歳くらいの間は、地方局で記者としての下地をつくる時期ですが、一方で出産に適した時期でもあります。私は28歳で出産して当時で言えば「早い方」と表現しましたが、一般的には早くはない。でも地方局の少ない人数の中で産休・育休を取るのには「申し訳ない」という気持ちがありました。  先日、私より6歳ほど年下のNHKドラマ部の女性ディレクターにインタビューする機会がありました。出産後3か月で現場復帰したその子がおもしろいことを言っていて。ドラマ部も男性が多い職場で、バリバリ働いてきた上の世代の女性は子どもを持つのは難しかったそうです。そこに私たちのような「すみません、お先に帰らせていただきます」と言いながら、出産後も仕事を続ける先輩が現れ、居場所を作ってくれた、と。  彼女は「私たち世代は『すいません』ではなくて、当たり前のこととして『仕事をしたい、子どもを産みたい』と言えるようにしていきたい。やりたいと思ったことを『やりたい』と言うのは個人のわがままでなく、口に出すことで見えてくる働き方や社会構造の課題があるはずだ」と言うのです。さらに「自分より下の世代も入局してきている。その子たちには『(仕事と子育てを)当たり前にしたい、って悩んでいたのですか? それって新鮮』って思われるくらいの価値観のバトンを渡していきたい」って。なるほどな、と思いました。  そんな話を聞き、バブルのバリバリ世代、すみませんって育休を取っていた私たちの世代、当たり前のように働き続ける世代、その後は「そんなことで悩んでたんですか? 逆に新鮮」世代になっていったらおもしろいな、と思いました。


それでも続く悩み


 岡田さん 「そんなことで悩んでたんですか」世代は、男性も当たり前に育休をとるようになっていると思います。小泉進次郎環境相のように「取ります」と宣言するのではなく、「取りますけど、それが」みたいな(笑)。そうなるとうれしい。卒業生がキャリアについて話すというテーマで、母校の大学へ講演に行った際、男子学生に向かって「みなさんは共働きになる可能性が圧倒的に高い。だから会社を選ぶ時に、働きやすい会社かどうかが、将来、奥さんが仕事を辞めなくてはならなくなるかどうかにかかわってくるんですよ」と伝えました。仕事と家庭の両立はどうしても女性の問題にされがちですが、これからは男性も考えてほしい。  私が入社した時に自分で描いたキャリアプランは、地方勤務後、27歳までに東京にいく。それまでは子供は産めないだろう、東京に異動して5年くらい働いたら子どもを産もう、と考えていました。でも当時はそこから先が考えられなかった。就職氷河期の終わりごろの入社で、まだ就活は厳しく、積極的に「子どもを産みたい」とは私は言えなかったのです。今の学生からは「子どもを産んで働き続けたい」とよく聞くので隔世の感があります。ただ、私自身のキャリアプランはまだ悩み中です。  ――仕事の継続には転勤の問題も大きいですね。  岡田さん 数年前から、NHKでは職員同士の夫婦の場合、同じ放送局に異動させることを始めました。実家近くの地方局に異動する方も多い。子ども2人を連れて実家の近くに転勤し、旦那さんは東京に残る例もあります。それでも転勤をどう考えていくかは大きな課題だと思います。  大窪さん 社内の女性同士でランチをすると、必ずといっていいほど転勤・異動をどうするか、という話題になります。数年前までは同じ局に夫婦で異動するのはあまりありませんでしたが、子育てに夫婦二人のマンパワーがあったほうが仕事も進む、ということで今はむしろ一緒に赴任することがよくあります。


地域も家電も助けてくれる

 ――最後に、子育てサービスなどで、仕事を続けるのに役立った、助かったという具体的な情報があれば教えてください。  大窪さん 私はファミリーサポート制度(地域の中で育児や介護の援助を受けたい人、援助したい人が会員登録し助け合う仕組み)を利用して、月曜と金曜に近所の方に保育園の送迎をしてもらっています。子どもたちは私の言うこときかなくても、ファミサポの「おばさま」の言うことはききます。火曜日にはシルバー人材センターで巡りあった「おばあちゃん」が家事支援にきてくれています。鍵を預けて家に勝手に上がってもらい、ごはん作りから掃除まで。地域の方々に助けられています。それに3兄弟は本当ににぎやかで大変なので保育園のおかげで働けていると思います。地域には子育てを助けてくれる人、親身になってくれる人がいるので、皆さんも早めに関係機関に相談してはどうかと思います。  岡田さん 私はファミサポでマッチする人が見つかりませんでした。私の住んでいる地域では、支援してもらいたい人に対して支援する人の数が少な過ぎました。結局、家電に頼っています。自動洗濯乾燥機を使うと、仕事に行く前に洗濯物を放り込んでおけば帰宅した時には乾いているし、床を拭いてくれる自動掃除機は静かで寝ている間もかけられる。会社で育休からの復職セミナーに参加した際、女性の管理職が「とにかく家電です。夫ができるくらいの家事は家電にもできる」と話すのを聞いて目からウロコでした(笑)。出産後に職場の近くに引っ越したことも大きいです。家賃の負担は大きいですが、通勤時間が短いのでその分、家事育児に時間が使えます。夫は仕事が終わってすぐに娘に会えますし、近くにしてよかったと思います。


大窪さん(左)と岡田さん


 <インタビューを終えて>  私(山崎、52歳)も子育てしながら記者を続けてきた一人です。私が出産したのは22年前。当時は延長保育の制度を使っても保育所で預かってくれるのは午後7時まで。ファミリーサポート制度も今ほど普及しておらず、病児保育も市内に一カ所しかない状況でした。社内を見渡しても出産後も仕事を続ける女性はごくわずかで、職場では私が育児休業取得の第一号。子育てに周囲の理解を得るのは大変でした。そのころに比べれば子育て関連や両立支援の制度は充実し、出産後も働き続けるのが当たり前になっている今、それでも「子育てがつらい」と思ったり、子育てしづらいと感じたりする人たちが少なくないことに問題の根深さを感じます。  一方で、大窪さん、岡田さんの「世の中に発信するコンテンツには子育て中の人の視点も必要ということを認識してくれている」「(子育て中の記者を)戦力として捉えてくれる」という話には希望がみえました。子育てで時間的制約がある中、やりがいをもって仕事を続けていくには、単に「働きやすい」ことだけでなく、戦力として認められ、正当に評価されることが欠かせません。  制約があってもいかに活躍してもらうか、どうすれば一人ひとりの力を生かすことができるか――。各報道機関で真剣に議論されることを望みます。



略歴
 大窪奈緒子(おおくぼ・なおこ)さん 1981年生まれ。福島県出身。2004年入局。08年に記者職に転換。前橋放送局、横浜放送局などを経て17年から報道局ネットワーク報道部。9歳、5歳、3歳の男児3人のママ。
 岡田真理紗(おかだ・まりさ)さん 1983年生まれ。群馬県出身。2005年入局。盛岡放送局、報道局社会部、ネットワーク報道部などを経て、19年8月から放送文化研究所。2歳女児のママ。

(2020年2月28日に取材しました)

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